いつもはゆっくり歩いて通う通学路を、今日は一生懸命走っていた。途中で腕時計を何度も見ながら時間の確認。もう絶対に間に合わない絶望的な時間だけど、不思議と走っちゃう。どうしてかな?
しばらくして校門が見えてきたので、私は一気にラストスパート。そのままの勢いで、校門の前まで走っていった。でも、校門は閉まっていて、その前では生活指導の人達が怖い顔で睨んでた。
ああ、もう、今日は最悪。朝寝坊はするし、犬さんには追いかけられて、学校とは別の方向に走らなきゃいけなくなるし。もっとも、犬さんは真虎にお任せしてきたから助かったけど。(真鹿ちゃん、酷いよ〜〜〜〜!![虎])
ひょっとして、まだ追いかけられてるのかなって思うけど、真虎は男の子だからきっと大丈夫だよね。(関係ないよ〜〜〜!![虎])
「夢守さん」
でも、久々に走った感じがする。ひょっとして、運動不足解消になったかな?
「夢守さん」
でも、ちょっと走っただけで運動不足解消出来るわけないか。頭がぽーっとするのは、運動不足の証拠だよね。
「夢守さん!」
「え、あ、はい?」
大きな声が聞こえたので振り向くと、生活指導部の部長さんが怖い顔をしてた。
「あなた、生活指導部員でしょう?」
「あ、はい。それが何か?」
何だろう、凄く機嫌が悪いみたい。ひょっとして、私また何かしちゃったのかしら?
「そのあなたが、どうして遅刻なんですか? 生活指導の部員がそれでは、周りへの示しがつかないじゃありませんか」
「あ、はい、そうですね」
そうよね。私、遅刻したんだった。でも、今日のは寝坊したんだし、いつもはこんなことはないし。
「そうですねじゃないでしょう? そもそも、どうしてあなたみたいな人が生活指導部員なのか……」
うう、そんなこと言われてもしょうがないじゃない。だって、最近朝が寒いから起きにくいんだもん。
「明日はもう少し早く来て、私達の仕事を手伝って頂けるといいんですけどね」
そのせいで、今日はごはんだって食べてないし、犬さんにも追いかけられるし……
「夢守さん!」
「は、はい!?」
大きい声を出されてちょっとびっくり。
「聞いてるんですか?」
「あ、はい。一応……」
私がそう言うと、部長さんがまた私を睨んだ。おかしいな、私何かしたかな?
「もういいです。早く生徒手帳出してください。あなたに構ってると、私までおかしくなりそう」
私は、きょとんとしながら生徒手帳を部長さんに渡した。
でも部長さん、何だか怒ってたみたいだけど何でだろう?
それに、どうして私と話してるとおかしくなるのかな? う〜ん……
ふと、そんなことを考えている時にチャイムが鳴った。これって、ひょっとして予鈴? いけない、このままじゃ朝のHRにも遅れちゃう。そう思って、私は昇降口へと急ごうとしたけど、ふいに思いとどまった。
この学校、校門から教室までは一分とかからない。本鈴までは、まだちょっと時間があるから、十分間に合う。
そう思うと急に気が楽になったので、私はゆっくり歩いて行くことにした。もっとも、急いで行こうとしても、今足が震えちゃってるから早く歩けないし。運動不足の証拠よね、これって。
そして、ようやく昇降口が見えてきたとき、後ろの方から大きな声が聞こえてきた。振り返ってみてみると、六月君が時々後ろを振り返りつつ、こっちに走って来るのが見えた。
「すっご〜い、はや〜い」
やっぱり男の子だけあって、六月君は凄く走るのが速い。私が今まで歩いてきたところをあっという間に通り過ぎちゃった。時々後ろを振り返ってるのは、その後ろに着いてくる男子生徒に声をかけながら走ってるからかな? 確か、同じクラスの男の子だったと思うけど。
凄い、早いなぁ。(10メートル)
私も、あれくらい早かったら遅刻しなかったかなぁ?(7メートル)
でも、私女の子だから、きっと無理だよねぇ。(5メートル)
男の子って、やっぱり凄いなぁ。(3メートル)
でも、六月君、さっきから後ろの男の子に話しかけながら前を見てない。危ないなぁ。(2メートル)
え? でも、このままいくと……(1メートル)
ズド〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!!!!
「うわ!」
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
六月君に突き飛ばされて、私は倒れ込んじゃった。それよりも、私ったら何で見とれてたんだろう。避けるくらい出来たのに〜。
「わ、悪りぃ、って夢守か。大丈夫か〜」
遠くの方で声が聞こえる。これって、六月君の声だよね。
「お〜い、夢守〜」
うう、大丈夫だけど、目の前が真っ白で何も見えないよぉ〜。
「しっかりしろ、夢守〜!」
しっかりって、私はしっかりしてるつもりだけど。
「夢守!」
あ、やっと見えてきた。やっぱり、六月君だ。
「六月君?」
「よかった、大丈夫か?」
「あ、うん大丈夫」
とりあえず返事をしたけど、その時私はぎょっとした。だって、六月君、私の上に覆い被さるようにしてるんだもん。
「あ、あの、えっと……」
やだ、顔が凄く熱い。六月君が、こんな側にいるなんて。
「どうした? 何処か、打ったりしたか?」
「ううん。大丈夫、なんだけ、ど……その、六月君が上に……」
「え、あ! わ、悪ぃ!」
そう言って、慌てて私から飛び退く六月君。
「えっと、あ、ほら夢守」
そう言って、そっぽを向いたまま手を差し出してきたから、私は思わずその手を取った。
私の手に比べると、とても大きくて何だか力強い感じだなって思っていたら――
ぐい!
「きゃ!」
六月君ったら、私を思いっきり引っぱって立たせちゃった。こういう所って、やっぱり男の子だなって思っちゃう。
私だったら両手で、うんしょ、うんしょって言いながら引っぱっても、きっと持ち上がらないだろなぁ。
「夢守、だ、大丈夫か?」
そんなことを考えてると、相変わらずそっぽを向いたままの六月君がそう聞いていた。とりあえず、自分の体をぺたぺたと触って確かめてみる。
……うん。特に問題なし。
試しに、その場でちょっと手足を動かしてみたけど、痛いところも無し。
「大丈夫だよ。それより、ありがとう」
「ば、馬鹿。ぶつかった相手に対して、ありがとうはないだろ?」
え?
あ、そうか。私、六月君とぶつかって突き飛ばされちゃったんだっけ。
でも、その後、心配して声をかけてくれたり、私の手を取って立たせてくれたりしたんだから、やっぱりお礼くらい言っておかないと。
「うん。でも、ありがとう」
「はい?」
あれ?
何だか六月君が、変な顔をして私の顔を覗き込んでる。私、何か変なこと言ったかな。
「お前さぁ……」
「ん?」
「………………まあ、いいか。夢守だもんな」
「む、なあに、それ。私だったら何なの?」
「いや、相変わらずなやつだって思っただけだよ」
呆れたような顔をして、そんなことを言う六月君。でも、私には言ってることがよく判らないなぁ。
「何が相変わらずなの?」
そう言って、六月君に一歩近寄ると顔を覗き込む私。
「あ、いや……」
あれれ?
何だか、六月君の顔が赤くなってきちゃった。どうしたんだろう?
そんな時――
リ〜ンゴ〜〜〜〜〜ン。リ〜ンゴ〜〜〜〜〜ン。
「「え?」」
思わず、六月君と一緒に変な声を出す。
これって、ひょっとして……本鈴?
「きゃああああああ!」
「たいへんだ〜!」
一緒に叫び声を上げると、私達は走り出した。
「いくら何でも、HRに遅刻はまずいだろ〜!」
「うん。まずいよね〜!」
急いで上履きに履き替えると、教室に向かって一直線。
でも、教室に着いた時には、すでに担任の先生がお怒りマークを頭に付けて私達を待っていた。
結局、遅刻。おまけに、以前にも六月君と一緒に遅刻したことがあったからHRの後、先生にお説教。
うう、やっぱり今日って、朝から大変なことばかり。
一日が、凄〜〜〜〜〜〜〜く長そうな気がするなぁ。
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