「待ってよぉ〜」
ぱたぱたと走りながら、先に行った真虎と真鶴を追いかける。
「真虎ぁ〜、真鶴ぅ〜」
でも、二人の姿は遙か先。ここからじゃ聞こえないみたい。私はそのまま走り続けて、やっと二人に追いついた。
「真鹿ちゃん、おっそ〜い」
息を切らせて駆け寄った私に、真鶴がそう言った。
「もう、二人とも冷たいよぉ〜。いくら寝坊したからって、私一人置いていくことないじゃな〜い」
「だって、あのままじゃ、私達まで遅刻するじゃない。ねえ、とらくん」
でも、真虎は憮然とした顔をしたまま、ただ黙々と歩いてた。どうしたんだろう、いつもは元気な笑顔でいぢめっ娘の真鶴から守ってくれるのに。(誰がいぢめっ娘よ![鶴])
「真虎、元気ないけど、どうしたの?」
心配になった私がそう声をかけても、真虎は何も答えてくれない。ほんと、どうしたんだろう。
「ねえ、真虎。真虎ってばぁ〜」
「…………」
「真虎く〜ん」
そう言って、私は真虎の手にしがみついた。男子校に通ってるせいか、最近の真虎はちょっと男の子っぽくてたくましくなったみたい。お姉さんの私でも、引きずられちゃう感じ。それはそれで嬉しい反面、ちょっと寂しい気もする。だって、昔みたいに三姉妹(?)で綺麗な着物を着たり出来なってきたから。
でも真虎、やっぱりちょっとおかしい。だって、振り向いてもくれないんだもん。
「真虎、どうしたのぉ〜」
返事無し。ここまで来ると、私もさすがに意地になってくる。お姉さんの実力(?)を見せてあげたくなっちゃう。
私は真虎の後ろに廻って、両手で目隠しをした。
「ま〜とら〜」
「いててててて!!!!」
突然、真虎が痛がったので私は思わず手を離した。どうしたんだろう。ひょっとして、目の中に指でも入っちゃったのかな?
「真鹿ちゃ〜ん、いぢめるのはその辺までにしたら〜」
真鶴がそう言ってる。失礼しちゃう。いつもいぢめるのは真鶴じゃない。
「ねえ、真虎」
でも、そんな真鶴の言葉を無視して真虎の顔を見たとき、私は驚いちゃった。だって、頬が赤く腫れ上がって、とっても痛そうだったから。
「真虎、どうしたの? ひょっとして喧嘩?」
でも、真虎は何も答えてくれません。
「真鹿ちゃ〜ん、覚えてないの?」
「え? 何を?」
「だからぁ〜、さっきのこと」
「さっきのこと?」
えーと、何だっけ。朝寝坊して、時間がなくてご飯もろくに食べられなくてお腹が減ってるってことかな?
「だから〜、さっき起きて着替えるとき、とらくんに何か投げたでしょ〜」
そういえば確かに。着替えようとしてパジャマを脱いだら、そこに真虎がいて、恥ずかしくなった私はとりあえず手近にあった何かを投げつけたんだっけ。で、それが真虎の顔に当たったと。でも、あれって何投げたんだっけ?
「縦、約十五センチ。横、約十センチ。厚さ、約二センチの辞書が飛んできた」
真虎が、憮然とした表情でやっと口を開いてくれた。そっか、いつも使ってる辞書を投げたのね。
「そうか、それで痛くて憮然としてたんだ」
理由が判ってちょっと安心。あ、でも、これって私のせいだよね?
「ごめんね真虎。私のせいで……」
「いや、いいよ別に」
「よくないでしょ〜。ちょっと見せて」
そう言って私は真虎の前に立って、その顔を両手で引き寄せた。真虎ってば、背も伸びたみたいなのでちょっと大変。つま先立ちしないと、顔を近づけないから。
「だから、痛いって〜!!」
あらら、また触っちゃった。何だか、相当ひどいみたい。
「随分、赤くなってるわねぇ〜」
「もういいよ、真鹿ちゃん」
真虎は顔を赤くして嫌がった。こういうところは、まだ子供ね。でも、この腫れ、いくら何でもちょっと酷いかも。
「ねえ、二人とも〜。朝から何してるのぉ〜? 別に姉弟だからいいけどさ〜」
背伸びして真虎の顔を見てる私に、真鶴がしょうがないなぁ〜っていう口調でそう言った。何をしてるって、真虎の傷の様子を見てるのよ。
私は思わず振り向いて何か言おうとしたけど、そこにいたのは真鶴だけじゃなくて、通勤する沢山の大人の方達だった。私と真虎の二人をしげしげと見つめてるのが判る。でも、どうしたのかしら。何で私達二人を見てるの?
「朝から熱いよ二人とも。ひゅーひゅー」
真鶴が、私達を茶化すようにそういいました。ってことは、ひょっとして私達、何か誤解されてるのかしら?
真虎の顔を見ると、顔を真っ赤にさせてるのが判る。あらら、恥ずかしがっちゃって。
「ねえ、それよりさぁ、いつまでもそんなことしてると学校遅れちゃうよ〜」
真鶴がそう言ったので、私は思わず腕時計を見る。
「あら大変、ホントに遅れちゃう」
「うっわ、僕もやばいよ〜」
「ほら、急ごう、真虎」
そう言って私が走ろうと一歩を踏み出したとき、足下にぐにゅっという感覚があって、同時に「きゃん!」という鳴き声が聞こえた。
「あら?」
前を見てみると、大きな犬さんが唸りながら私を睨み付けてる。で、しっぽには足跡がしっかりとついてた。
「あ、あれ? 犬さん?」
ひょっとして今のって、犬さんの尻尾? 私、犬さんの尻尾を踏んじゃった?
「真鹿ちゃ〜ん」
真虎が私の後ろから、恐る恐るといった感じで私の名前を呼んだ。大丈夫よ、謝ればきっと許してくれるから。
「あ、犬さんごめんなさい」
私はぺこりと頭を下げた。でも、頭を上げると犬さんは唸りながら睨み続けてた。
「に、逃げた方がいいんじゃない」
真虎がそう言って、一、二歩後ずさりすると、犬さんはすっごく怖い顔をして前に進み出てきた。そして――、
「わんわんわん!」
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
犬さんがいきなり吠えたから、私と真虎は思わず逃げ出した。すると、犬さんは吠えながら私達の後を追いかけてくる。
「や〜ん! 学校こっちじゃないのに〜!」
「真鹿ちゃん、何とかしてよ〜!」
「真虎こそ、何とかしてよ〜、男の子でしょ〜」
「関係無いだろ〜!」
「二人とも〜、何処行くの〜、学校そっちじゃないよ〜」
真鶴がそう言ってるのが聞こえる。私だって判ってるのよ〜。でも、犬さんが、犬さんが〜。
「わんわんわん!」
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
こうして、私達三姉妹(三姉弟![虎])の朝が過ぎていきました。
「遅刻……決定ね」[鶴]
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