彼女の纏う白の着物を、帯を解かずに肩から滑り落とす。
上半身を外気に晒す。
彼女は少し寒そうに身震いをし、瞳を閉じた。
露になった左肩からは、爪の先まで血が滴っていた。
白い肌に、朱が映える。
「ラヴァが早く来てくれないから、こんな事になっちゃったのよ。」
強い瞳に涙を溜めて、彼女は悲しみとも、苛立ちとも、苦しみとも取れる声音で私を叱咤する。
「―すみませんでした。」
私は素直に謝罪する。
謝った所で彼女の機嫌は直らず、視線は他所へと向けられたままだ。
彼女の肩には掛からない様に細心の注意を払って、足下の池の水で血を流す。
彼女の、赤い血。
自分の中にも混ざり流れているそれは、足下の水面に美しい波紋を描いていた。
「ラヴァ。」
彼女が口を開く。
瞳は潤んだまま、しかし私を捉えていた。
「喉、渇いちゃったの。」
やはり不機嫌そうに、しかしすがる様に、私の懐に潜ってきた。
無言で応える。
彼女の頬に手を添え、その爪が傷付ける事のない様注意して、もう片方の手でそっとその髪を撫でた。
額に、頬に、そして唇にも軽く口を付けてから、喉元を晒す。
「美夕、どうぞ。」
彼女はようやく笑顔を見せて、
私の首に彼女だけの口付けをする。
唇が触れる瞬間の彼女の表情は妖艶で、あどけない顔からその表情が滲み出る時、私はいつも見入ってしまうのだ。
そしてその牙が立てられる。
首筋が一瞬ひやりとしてから、段々と熱が集まり。
脊髄から全身を駆ける様な快感と、彼女自身を感じながら、
強く、彼女を抱き締める。
「ラヴァ、痛いわ。」
気付かず力を込め過ぎた様で、慌てて緩めると彼女は・・・
先程とは打って変わり機嫌が良くなったらしく、腕の中でくすくすと笑っていた。
嬉しそうに、満足そうに。
「貴方は私に吸われている時が一番幸せそうね?」
その言葉に、少し顔に熱が集中する。
否定は、しない。
必要とされれば、それは守護者としてこの上ないのだから。
「・・・もう、傷は大丈夫なのですか?」
彼女は思い出した様に晒したままの左肩を確認し、次いでその肩から腕までを撫でる。
「うん、大丈夫。」
確かに傷は殆どなく、白く美しい肌に溶け込んだ。
しかし、一番傷が深いらしい所にはまだ血が滞り残っていた。
「ラヴァ?」
細い肩に付いたその傷に、唇を寄せる。
そして溜まっている血を、吸い出す。
彼女の身体がぴくりと跳ね、少し強張った。
そのままで仰ぎ見ると、
彼女は頬を染めて困った様に笑いながら、私を見つめていた。
私はその傷から出て来るだけの血を吸い出し、それを飲み込んだ。
彼女は少し驚いた様に眼を見開いた。
最後に傷を一舐めし、視線を彼女の高さに戻す。
「なんか・・・変なの。」
彼女は苦笑しながらも着物を整える。
少し照れた様な笑みを浮かべて。
無言で、黒衣に包み込む。
外気に晒していた為、肌は冷えてしまっていた。
「本当に・・・すみません。」
彼女の髪に顔を埋め、呟く。香が鼻腔を擽る。
彼女は向き合う様に身を返し、私の頬を両手で挟んだ。
「ラヴァ、大好き。」
いつもの様に。
嬉しそうな笑みを浮かべて、彼女は言う。
いつもの様に。
私も笑みで返す。
彼女はそっと顔を近付け、唇を重ねた。
許される時と、愛情表現の時はそれは深く。
「血の味がするわ。」
それは先程私が口にした、彼女自身の味だ。
彼女は少し首を傾げる。幼い動作。
「私、ラヴァと同じ味なのね。」
そうして彼女が浮かべるのは
どこまでも、悪戯な笑顔。
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